屍人荘の殺人~奇想と本格ミステリーの煽りは伊達ではない

屍人荘の殺人

デビュー作にして、主要ミステリランキング3つで1位を獲得した「屍人荘の殺人」。気になったので読んでみたら、中々に斬新な造りだった。

あらすじ・概要

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、同じ大学の探偵少女である剣崎比留子と共に映画研究部の夏合宿に参加する。合宿直前には脅迫状が送られてきており、彼らの行く手を暗雲が立ち込めていた。。

合宿一日目の夜、葉村は映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、そこで○○○に襲われて……。

想像の遙か先の事態をに遭遇した合宿参加者は、ペンション紫湛荘に立てこもりを余儀なくされる。

動乱と緊迫、恐怖に満ちた一夜が明けた朝、部員の1人が死体となって発見される。部屋は密室、ペンション周囲も隔離されて……。二重の密室での殺人事件。そして死体の有様はあまりにも惨たらしく、人間には不可能と思えるほど凄惨なものだった。

現役探偵少女すらも頭を悩ませる難事件。犯人とは別に主人公、葉村たちを狙う○○○の存在。二重の恐怖の中で謎を解き明かし、ペンションから脱出できるのか?

○○○をミステリーと絡めるということ

ネタバレ注意
○○○については、屍人荘の殺人最大のネタバレなので、まだ読んでいない方はすぐに最後まで読んでください


ネタバレ警告したように、屍人荘の殺人最大の肝にして、最大のネタバレになるのが○○○こと、ゾンビの存在だ。

僕は最初にゾンビが登場した時、思わず笑ってしまった。本格ミステリーを謳っているベタなミステリー設定で、まさかゾンビが出てくるとは思わなかったからだ。

このゾンビの存在を受け入れるかで、屍人荘の殺人を楽しめるかが、大きく異なってくると思う。僕も最初はチープに感じたが、作中の説得力のある説明や、最近小耳に挟んだ「虫の脳を支配する寄生虫」の存在を思い出し、次第に受け入れていった。

技術が進歩した昨今なら、某ゲームのような細菌テロが引き起こされる可能性もゼロではないのだ。

面白いと感じたのは、ゾンビがペンション周囲に徘徊していることで、吹雪や嵐のような隔離された状況を作り上げられるという点だ。王道的な設定に、ゾンビというファンタジー系の要素を加えると、途端に斬新な設定となるあたり、今後どういうミステリー作品が生まれるのか、楽しみだ。

また本作で行われた3つの殺人は、全てゾンビを上手く活用している。ただゾンビを出して終わりではなく、全ての殺人事件に絡めているのは、見事としか言いようがない。

名探偵になれなかった男

本作でもう1つ驚いた点が、主人公にとってのホームズともいえる男、明智が早々に退場した点だ。比留子が登場した当たりから、おや? という違和感を感じていたのだが、その違和感は的中してしまった。

明智は比留子ほど非凡な印象を受けなかったが、それでも事件に対するアグレッシブな姿勢から、比留子とは別の視点で推理を立てるなど物語を上手くかき回してくれるかと期待していると、見事に裏切られてしまった。

ゾンビの登場といい、サプライズ要素の多い作品である。

探偵少女、比留子について

読み終わった印象では、可愛らしいという印象を受けた。というよりも、性格や設定などがライトノベルっぽい……。

作者はライトノベルの賞にも応募した経験があるらしく、その名残か。

文章も軽めで、活字慣れしていない人でも読めるものだったので、全体的に若い人に受けそうだ。

ミステリーオタクの葉村と、ミステリーに疎い比留子は、良い感じに噛み合っていたので、続編などにも期待できるのではないだろうか。

構成は上手いが、綺麗すぎる気も

ゾンビの登場や、明智の退場など、独創的な構成をしている本作だが、中盤からは流れが直線的な印象を受けた。

というのも、犯人の狙いが部活のOB2人のみだというのが、読み進めていく内に半ば確定してしまう。これについては本文でも触れているように、OBの2人以外はターゲットではないため、他の人物が恐れるのではという緊張感が薄れてしまい、どこか他人事のように感じてしまう。

またゾンビはバリケードを突破するのに苦戦しており、普通の大学生である主人公たちでも対処できるため、正直ゾンビたちに恐れを感じることができなかった。

ラストでは、事件の推理が終わった後にタイミングよくバリケードが破られて、逃げた果てに屋上からヘリで脱出。やはり終盤は、直線的で綺麗過ぎる気がする。

辛口になるが、緊張感や予想外の展開が後半ほしかった。そういった意味では、明智の様に物語をかき回すトリックスターがいても良かったのかもしれない。

全体の感想

全体の感想として、ミステリー小説の入門書として最適だと思う。もしくは、ありきたりな設定のミステリー小説に飽きている人でも楽しめると思う。

後半は予定調和な印象を受けたが、それでも序盤から中盤にかけては、怒涛の勢いで予想外の展開になる。ミステリーランキング3冠を達成した作品なので、つまらないということはないはずだ。まだ未読の方は、ぜひ読んでほしい。

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