雪の断章 感想~おとぎ話のように幻想的なメルヘン風ミステリーだった

雪の断章

あらすじ・概要

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが…。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。

ネタバレありの感想

過ぎ去り訪れる幻想冬景色と苦難の連鎖

本書を開いてまず情景描写の美しさに魅了された。今より少し前の時代の札幌と聞くと、ロマンチシズムの欠片も感じられない。だが主人公「飛鳥」を通して語られる札幌はどこか幻想的ですが、おとぎ話を読んでいるかのような感覚を受けた。 だが本書の解説でも評されているとおり、この物語は「メルヘン風ミステリー・ロマン」なのだ。 メルヘン風なタッチに反して本書では殺人事件が起こり、容疑が飛鳥に向けられる。誰がどうやって被害者を殺したのか、主人公「飛鳥」が事件現場周辺に隠された証拠などをヒントに解き明かしていく様はまさしくミステリー小説。

犯人を暴くだけがミステリーではない

本書は紛れもないミステリー小説ではあるが、面白いのが犯人を見つける=ゴールにはならないという点だ。 飛鳥は誰が犯人か気づくも、物語はそこで終わらない。本書のテーマの1つでもある法が絶対ということへのアンチテーゼとして、飛鳥は犯人を誰にも告げず胸の内にしまっておく。 そういう意味では、愛する「祐也」の胸中に気づくこと、そして飛鳥がどれだけ頑なな心をしているか、その2つを解き明かし認めることこそが、名探偵飛鳥が解き明かすべき謎だったのだ。

すれ違い続けた先に

本書の主人公飛鳥は周りからも散々言われているように、自分の殻に閉じこもっており、中々自分の心を曲げようとしない。そのため祐也も含め、様々な人間とすれ違い続け、時には不仲にもなる。 最終的に飛鳥と祐也の想いは合流し、「ようやくか」と一物の安堵と大きなカタルシスを覚えた。 だがその直後、一度は飛鳥と結婚まで話が進んだ史郎が自殺する。辛いことの後には幸せが待っているが、幸せの後には辛いことも訪れる。 そして語られる史郎の心情と事件への答え合わせ。すれ違い続けた果てに掴んだ飛鳥の未来は明るいものとなるだろうが、史郎の死が悲壮感を叩きつけてくれた。 おとぎ話のような、完全な幸せを読書に与えないことからも、本書はただのメルヘン小説ではないのだと痛感した。

まとめ

読後感は不思議なものとなってしまった。飛鳥と祐也が結ばれたことを祝福すればよいのか、史郎の死を悲しめばよいのか、それとも飛鳥や史郎の想いの果てに、木岡家が衰退することに満足感を覚えれ良いのか。 複雑な気持ちが込み上げてきたが、同時にこれこそが小説の醍醐味なのだと、どこか満足した自分もいた。 解説を見る限り、どうやら本書には続編というべき作品があるようなので、近い内にこちらも読み進めたいと思う。

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